【本】木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか/増田俊也

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(90点)

700Pを超える大作だが、木村政彦と力道山との世紀の一戦前夜から始まる導入部から、この時代に吸い込まれるように読んでしまった傑作本。

昭和29年12月、活動の場をプロレスに移した木村政彦と、人気絶頂の力道山との一戦。「昭和の巌流島」と呼ばれ、視聴率100%。全国民注視の中、最強柔道家は、力道山に一方的に潰され、表舞台から姿を消した。「負けたら腹を切る」という、武道家としての矜持を持っていた木村はなぜ、簡単に敗れたのか?戦後日本スポーツ史上、最大の謎とともに木村の数奇な人生に迫る。『ゴング格闘技』大反響連載、待望の書籍化。

描かれている物語の真偽についてはわからないが、木村政彦が空前絶後かつ史上最強の柔道家であること、とても魅力的な男(これは人間的に素晴らしいという意味ではない)であったことは「真」だろうと思う。

中心にあるのはタイトルの通り、木村政彦と力道山の決戦にあるのだが、柔道(柔術)とプロレスの歴史を読み解く本としてもとても面白い。

筆者は柔道出身ということもあり、木村政彦にかなり肩入れしており、力道山への憤りが様々な形で噴出しているのだが、力道山=悪役にするためのミスディレクションを試みているわけではない。

自身で「木村政彦に肩入れしている」ことを文中に明言しているし、関係者とのインタビューでも「木村政彦に偏った説得に近いやりとり」を隠そうともしていない。

そこには冷徹なノンフィクションとは違った形の、筆者すらをも感情の波に飲み込んでしまう世界があるように思えてしまうのだ。

木村政彦とエリオ・グレイシー

ノンフィクションとして読むのも良いが、最高レベルの「男のファンタジー本」としてオススメしたい徹夜本だ。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(90点)