明子は疲れていた。
しかし充実感でいっぱいだった。
今日、紹介されたアルバイトに初めて行ったのだ。
最初は緊張したけれど、作業に慣れるにつれて楽しくなってきた。
作業は単純。
10センチ四方の段ボール箱に25センチ四方の段ボール箱を壊さずに詰めるだけだ。
思ったよりも難しかったけれど、先輩からコツを教えて貰ってできるようになった。
単純作業だけど、奥が深い仕事だと明子は思った。
バイト代だって悪くない。
時給750円。
コンビニで働いている中国や韓国からの留学生よりは貰ってると思う。
でもお金じゃないとも明子は思う。
10センチ四方の段ボール箱に25センチ四方の段ボール箱を壊さずに詰める、という奥深さに明子は魅せられたのだ。
明子は携帯電話を手に取り、どこかにかけ始めた。
tullllllll
「はい! モバイト・ドット・コムです!」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「はい?」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「登録番号をおっしゃっていただけますか?」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「今日、どこで働かれました?」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
明子は勘違いしていた。
テレビCMと現実は違う。
話はそう簡単には運ばないのだ。
しかし明子は気づかない。
10センチ四方の段ボール箱に25センチ四方の段ボール箱を壊さずに詰める興奮に包まれていたから。
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
「今日のモバイト ずっと続けたいんですけど!」
明子が10センチ四方の段ボール箱に25センチ四方の段ボール箱を壊さずに詰める奥深い作業をする事は二度となかった。