【本】マネー・ボール/マイケル・ルイス

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いつのまにかこの目からウロコの名著が文庫化されていたので紹介。

メジャーリーグの球団アスレチックスの年俸トータルはヤンキースの3分の1でしかないのに、成績はほぼ同等。
この不思議な現象はゼネラルマネージャーのビリー・ビーンの革命的な考え方のせいだ。
その魅力的な考え方はなんにでも応用できる。
マイケル・ルイスはこの本で、その考え方を、切れ味のいい文体で、伝記を書くように書いた。
ここには選手たちがたどる数々の人生の感動と、人が生きていくための勇気が溢れている。

野球の本としては「フルハウス 生命の全容-四割打者の絶滅と進化の逆説」スティーヴン・ジェイ グールド(ハヤカワ文庫NF)と並ぶ刺激的な一冊。

オークランド・アスレチックスという、メジャーで下から数えたほうが早い貧乏球団が、毎年のように好成績を残すのは何故か? に迫る。

まずアスレチックスが目指したのは、野球の諸要素を見直すことで投資収益率を高めることである。
高給取りの有名選手がチームにいないから成績が悪い、なんていう泣き言ばかりのどこぞのプロ野球チームとは出発点がまるっきり異なる。

諸要素を見直すことで、新しい野球観・選手の評価法を発見した結果、アスレチックスがドラフトやトレードで得た選手の大半はほとんど無名に近い選手ばかりであった。

古い野球観の例として、スカウトは背の低い右投げ投手や、出塁率が高くても小柄で痩せた選手、太った選手の評価を低く見る傾向がある。こうした既成概念をアスレチックスは問題にしなかった。

こうした既成概念と対立するような考えをアスレチックスは示しているわけだが、その例を一つ一つあげるとキリがないほど革命的な経営方法を実践している。

「守備力はせいぜい試合の5%にしか影響を与えない」
「打率と盗塁数は実はたいして重要ではない」
「犠打は得点になんら影響を与えていないので、無駄死にに過ぎない」
「最も重視すべき数字は出塁率」

今の日本のプロ野球では重要とされていることと反対のことが書かれている。

しかし、日本の野球で定説のように語られている上のような言葉は、数字に裏打ちされているわけではなく、多分に感覚的なところに依っている。

ファインプレーで失点が防げた、盗塁したから点が入った、送りバントをしたから得点圏にランナーが進んだ。

こうしたプレーは勝った時に印象的ではあるかもしれないが、統計学的に考えると試合に与える影響が低いという結果があり、実際にそうした統計上の数値を反映させて成功を収めたのがアスレチックスなのだ。

結果的にはメジャーの多くの球団が同様のシステムを導入して成功しているが、こうした統計をもってしても可能になるのはプレーオフ進出までで、短期決戦となるプレーオフではさほど効果が得られない、ということろもスポーツの面白さではないだろうか。

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