外国人が日本を旅して記した本は色々とあるわけだが、開国間もない明治時代の日本の見聞録、行き先は江戸発~東北~北海道、しかも主人公は女性という珍しいと云うかほとんど唯一と云っていい一冊が本書イザベラ・バードの「日本奥地紀行」である。
今の日本とはちょっと違う外国人が珍しかった頃の本を読んでると、会ったこともない昔の日本人が外国からの客人になにやら失礼なことをしでかさないだろうか、と意味もなく心配してしまう余計なお世話。
文明開化期の日本…。イザベラは北へ旅立つ。本当の日本を求めて。
東京から北海道まで、美しい自然のなかの貧しい農村、アイヌの生活など、明治初期の日本を浮き彫りにした旅の記録。
ハーバート・G・ポンティング「英国人写真家の見た明治日本」やシュリーマンの「シュリーマン旅行記清国・日本」と比べると、「日本好き」というフィルターが薄い分、当時の日本の一般民衆の姿が生々しく浮かび上がってくるような描写が多い。
登場する日本人の大半はあまり清潔ではなく、宿には当たり前のように蚤が大量に発生して衛生環境も宜しくないし、食事も実に粗末だったようで、更には道路事情も実に悪い。
イザベラ・バードもそれには辟易しつつも日本人の生活を尋常じゃないくらい細かく観察し、事細かに書き記していて、読み応えはかなりのもの。
細かく観察という点で云えば、「シュリーマン旅行記清国・日本」に近いものがあるが、物の寸法に執着するシュリーマンと比べると、イザベラ・バードの偏執は景色や人物に向いているので、こちらの傾倒の方が興味深かった。
ただ、元々が故郷にいる妹に送った気易い手紙だったせいなのか、書いてあることが一貫していないように思える箇所もチラホラ。
また上から物を見てしまう点が時折見られるが、そこを差し引いても明治期の日本を知る最良の一冊には違いない。