作品情報
- 監督:バンクシー
- 出演:ティエリー・グエッタ / スペース・インベーダー / シェパード・フェアリー / バンクシー
- 公開:2010年
感想
「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」は、イギリスで正体不明のアーティストとして活動するバンクシーの初監督作品。
以前、「アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~」という人生ベスト5に入る傑作ドキュメンタリーを紹介したが、今回紹介する「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」もこれまた大傑作なドキュメンタリーである。
誰もその素顔を知らないというミステリアスな素性と、社会風刺に富んだグラフィティ・アートを世界各地でゲリラ的に展開する大胆不敵な活動で世界的に注目集める覆面アーティスト、BANKSY(バンクシー)が自ら監督し、ストリート・アート、そしてアート・ビジネスの世界にユニークな切り口で迫る異色のアート・ドキュメンタリー。
LA在住のフランス人アマチュア映像作家ティエリー・グエッタは、いとこに著名なストリート・アーティストがいたことでその世界に魅了され、危険を顧みず警察の取締りにも怯むことなくグラフィティを描き続ける彼らの後を追い、その作品を記録し続けていく。
やがてふとした偶然から、謎に包まれたアーティスト“バンクシー”との接触に成功、彼の信頼を獲得してその貴重な作品製作の一部始終を記録することを許される。
ところが、ティエリーには膨大な映像素材を1本にまとめる映画監督としての才能がゼロだった。
その致命的な欠陥に気づいたバンクシーは、ティエリーに映画監督ではなく自らアーティストになってはどうかとアドバイスするのだったが…。
「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」は、事前に知識を入れずに観て、その後に色々な評を確認してから再見するとより楽しめる作品だと思う。
が、アーティストの手掛けた映画なので、小難しい映画という先入観で避けられそうだから、ザックリと物語の流れを書いておく。
- 主人公のティエリー・グエッタは自身がオーナーの古着ショップが成功していて、自分を中心にビデオを撮影するのが趣味。
- ティエリーのいとこがたまたまストリート・アーティスト。
- いとこを被写体にしているうちに、ストリート・アート(アーティスト)の世界に魅了されるティエリー。
- ひょんなことからストリート・アート界最強の大物バンクシーと知り合いになる。
- バンクシーにストリート・アートのドキュメント映画を撮るように勧められ、その気になるティエリー。
- 四苦八苦して膨大なビデオをまとめたドキュメンタリー作品を仕上げるが、あまりの才能のなさにバンクシーが失望。
- そこでバンクシーはティエリーにアーティストになり個展を開くことを提案。
- 人の良いティエリーは憧れのバンクシーに勧められたことで有頂天になり、「ミスター・ブレインウォッシュ」という名で作品を作り個展を企画する。
- すったもんだしながらも、どうにか開いた個展は(バンクシーの推薦文の効果もあって)大成功。ミスター・ブレインウォッシュことティエリーは一流アーティストの仲間入りを果たす。
というのが「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」の大きな流れなんだけど、このストーリーから読み取れるメッセージは、「芸術」の欺瞞、「芸術」周りにいる人達の欺瞞である。
ただのストリート・アート好きに過ぎないおっさんのノリだけで作った作品が、大物(バンクシー)の後ろ盾を得ることで、自称アート好き(アート感度高)な人達に絶賛され買われる様は「価値観への強烈な皮肉」である。
作品の「良し悪し」を「自分の頭や感性で受け止めてる?」というメッセージはバンクシーのファンにですら適用されるわけで、天に唾する様なところもあるバンクシーの矜持はとっても面白かった。
この感想ではストレートな見方で得たメッセージを書いているが、「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」については色々な噂や後日談、サイドストーリー、面白い視点からのレビューがたくさんあるので、色々掘り下げてみるととっても面白いと思う。
ちなみに通勤途中に「Banksy」という名の携帯・PHS・販売買取専門店があるが、その店の主人が「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」を観たのかどうか気になるところだ ((フランチャイズ展開しているショップのようである。))。