老ヴォールの惑星
小川一水
早川書房
小川一水の小説は初めてだが、これは当たり。
>>内容<<
偵察機の墜落により、おれは惑星パラーザの海に着水した。
だが、救援要請は徒労に終わる。
陸地を持たず、夜が訪れない表面積8億平方キロの海原で、自らの位置を特定する術はなかったのだ―通信機の対話だけを頼りに、無人の海を生き抜いた男の生涯「漂った男」、ホット・ジュピターに暮らす特異な知性体の生態を描き、SFマガジン読者賞を受賞した表題作ほか、環境と主体の相克を描破した4篇を収録。著者初の作品集。
一番最初に収録された「ギャルナフカの迷宮」は、餌場・水場・人間の三つが構成する世界で生き残りを賭けて戦う囚人たちの姿を描いている。
刑を受けた囚人には重複しない各1枚の地図が手渡される。
その地図には地図を渡された囚人に与えられた餌場と水場が記載されているが、餌場と水場は離れたところにあるため、移動を余儀なくされ、その間に空巣に入られたり、他の囚人と遭遇する可能性がある。
こうしたルールに支配された迷宮で囚人たちはどのように生きていくのか、設定だけで引き込まれる要素たっぷりの小説。
堀晃の「梅田地下オデッセイ」を読んだ時に似たような興奮を覚えたことを思いだしたが、これって映画やゲームの下敷きにすれば相当面白いものができると思うのだが、どうだろう。
続く表題作「老ヴォールの惑星」は描写が美しいなぁとは思ったが、内容としてはそんなに魅力的に感じなかった。
「幸せになる箱庭」は地球人類よりも遙かに進んだ未知の知性体とのコンタクトを描いている。
これもあまりピンとこなかった。
最後の「漂った男」は、救援を受けられない惑星に取り残された男の末路を描いた中編だが、これは傑作。
救援できない理由には無理を感じるが、展開は面白いし、ドラマとして十分魅力的にできていると思う。
個人的には「ギャルナフカの迷宮」と「漂った男」を読むだけのために買っても損はないと思う。
老ヴォールの惑星
小川一水
評価: