いましろたかしと云えば、どうしようもないほど情けない人々を愛さずにはいられないテイストで描かせれば超一流の人である。
1991年から93年ごろのいましろたかし作品を集成。
気がつけばすっかりいい歳になってしまった、なさけない人々のなさけない日常が、ゆったりと描かれた短編集である。
表紙には、実になさけなくも味わい深い表情で体育座りをした男、チバちゃんが描かれているのだが、この絵のたたずまいにはいましろ漫画の魅力が凝縮されていると言っても過言ではないだろう。
チバちゃんは、誰と話をしてもほとんど断言をすることなく、ただ「う~ん…」とつぶやき、あきれられる。
常に困ったような表情をしていて、実際に自分の生活状況に困ったりもしているのだが、それほど切迫して焦っているわけでもない。
どうにかしようにも、どうしたらいいかなかなかはっきりと決めることができない。そんな宙ぶらりんなかっこ悪さ、間延びした感覚の再現は、実にリアルかつ豊かである。
だから、これといったドラマがまったくないにもかかわらず、いましろ漫画はおもしろい。
登場人物が、トコトコと歩いて行った先の風景を呆然と眺め、またトコトコと帰路につく。
ただそれだけでも不思議と読ませるおおらかな魅力が、情景や表情からにじみ出ているのだ。
登場人物や話のなさけなさ、無駄の多さに拒否反応の出る人もいるかもしれないが、ここには確かに、ちっぽけな人間の愛すべき本質が描かれている。
「トコトコ節」の主人公の千葉ちゃんとその友達が織りなすハーモニーの情けなさには、感動も驚きもなく、なにも学ぶべきものがないことへの崇高さを感じるのである。
正直、オレは千葉ちゃんが友達だったら嬉しいと思う。
山下敦弘監督の通称”ダメ男三部作”と呼ばれる映画「どんてん生活」「ばかのハコ船」「リアリズムの宿」が好きな人ならこの漫画も好きだと思う。いましろたかしと山下敦弘にはなんか通じるものがあるかも。