なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
スーザン・A. クランシー
早川書房
タイトルのままであるが、エイリアンに誘拐されてあんなことやこんなことをされた(エイリアン・アブダクション)という人(アブダクティ)が、なぜ、そんなことを思うのか、を解明する本。
>>内容<<
「エイリアンに誘拐されたことがある人求む」
ハーバード大の心理学者である著者は、記憶の研究の被験者を募る新聞広告を出した。
集まったのは、ごく普通の人たちだった―奇妙な思い込みをのぞけば。
彼らの話に物証はまったくなく、実際の記憶はないのに誘拐されたのだと語る人もいるが、みな不思議と似たような経験をしている。
彼らにいったい何が起こったというのか? 科学技術時代の複雑な人間心理の謎を解き明かす書。
アブダクションに関しては、アブダクティの証言のみが証拠であり、物証といったようなものはまったくない。
しかし、アブダクションが起きたという思い込みは、睡眠麻痺や記憶のメカニズムという科学的な説明では崩すことはできず、アブダクティに抵抗されるのがオチである。
なぜなら、彼らはアブダクションがあったという記憶に実感まで伴っているからである。
著者はそうした記憶が作られるメカニズムを科学的に説明している。
アブダクションの記憶というのは、空想傾向や、記憶のゆがみや、現在のアメリカ文化のなかで手近にある物語の筋や、入眠時幻覚や、科学の知識の欠如が混ざり合い、催眠による暗示と補強にけしかけられて、できあがったものだと考えるのがもっともわかりやすいと思っている。
こうした説明によりアブダクションという記憶ができあがるまでの過程は見えてくるが、筆者はアブダクションの記憶に対して否定的なわけではない。
アブダクションが他のトラウマ的な出来事(事実であるにせよ間違った記憶であるにせよ)と異なっているのは、アブダクティたちはこの記憶により、人生の意義、安心、神の啓示、精神性、新しい自分といったものを手に入れ、アブダクション以降人生が良くなっていると感じている、という点に注目し、つまりこれは宗教から得ているものと同じであり、なんら彼らに害をもたらしているわけではない、としている箇所は面白く、アブダクティに対する新たなる考えを提示しているとも云える。
なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
スーザン・A. クランシー
早川書房
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